白昼夢


この町は平和だ。もしかしたら僕の見ていないところで小さな事件が起こっているのかもしれないが。
それでも僕の見ているこの町は平和だ。

だから、僕は路地裏でその少女に出会った時もこの町は『平和』なのだと思い続けていた。

その少女は路地裏で一人膝を抱えて泣いていた。
僕はその時何故だかその少女が放っておけなくて、思わず声をかけてしまった。

「どうしたの?」

少女の方が小さく震えた。

「人を・・・殺してしまったの」

少女の口から出た言葉は僕の予想をはるかに超えていた。

「え・・・と・・・?」

「何人も、何十人も・・・もう、数えられないほど殺してしまったの」

僕は声をかけたことを激しく後悔した。

「へぇ・・・すごいね」

僕の言葉に少女はふるふると首を振った。

「すごくないの。こんなチカラいらないの」

――チカラ?

「もう誰も殺したくないの」

何故だろう。この少女の話を聞いてると頭がズキズキする。

「あなたも、来ないで」

この少女と、関わってはいけない。

「あなたは良い人だから、殺したくないの」

それなのにこの少女から、目が離せない。

「だから、来ないで」

・・・・・・イライラする。

「これ以上、私の『世界』に踏み込まないでっ!」

イライラ、する。

「・・・・・・っ?
 なに訳わかんないこと言ってんだよ!」

思わず少女の手をとってこちらを向かせた。

少女と、目があった。

真っ黒な瞳。瞼が赤くはれ上がった瞼。
相当な時間泣き続けていたのだろう。

「あ・・・春奈・・・?」

「秋人・・・?」

「「・・・・・・誰?」」


見たことのない子。
きいた事のない名前。
それなのに
僕はこの子を知っている。


僕は昔から夢を見ない。正確には『見た』ことを『覚えて』ないのだろうが。

『夢を見ない人間はいない』

誰かが、そう言っていた。『見たのを覚えている』か『いない』かそれだけの『違い』だと。


次へ